1.SNR測定 (差分法)

MRI精度管理
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SNR測定 (差分法)



以前に似たような精度管理のサイトを公開していましたが、諸事情により閉鎖してしまいました。

今回、再度ブログ運営する機会がありましたので、また復活して残しておきたいと思います。

準備編

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ファントムを用意しよう

まずは撮影対象となるファントムが必要となります。

MRI装置付属ファントムがあって、形やサイズが条件に合っていればOKです。
無い方は借りるか、作るか、が必要です。

ファントムの形や大きさは指定があるので注意!

ファントムの条件

認定機構には条件が細かく記載されているので、確認します。
その中からファントムの条件を抜粋しました。

注意点として、一番はじめの行に、「標準的なNEMA法で測定する」と書いてあることです。
NEMA法を完全理解した上でやってくれという、ちょっと無茶な要求です。

1)標準的なNEMA法で測定する。

2)ファントムについて
・頭部:最小寸法は撮像面内で直径10cmの円または保証範囲の85%のうち大きい方を満たすもの。
・体幹部:最小寸法は撮像面内で直径20cmの円または補償範囲の85%のうち大きい方を満たすもの。
・T1値<1200ms、T2値>50ms

性能評価試験項目|日本磁気共鳴専門技術者認定機構(JMRTS) (umin.ac.jp) より抜粋して引用

★頭部想定用として直径10㎝以上20㎝未満のファントムを1つ
★腹部想定用として直径20㎝以上のファントムを1つ
★できれば球形のファントムが良い

保証範囲とは?

ちょっと長くなります。
興味がない方は飛ばしてもぜんぜん問題ありません。

1.1 SPECIFICATION VOLUME
The specification volume is the imaging volume within which a manufacturer guarantees image performance specifications. Images or portions of images outside this volume may not necessarily meet performance specifications, but may still be useful for diagnostic purposes. For head scans, the specification volume must enclose, as a minimum, a 10 centimeter diameter spherical volume (dsv) centered in the RF head coil. For body scans, the specification volume must enclose, as a minimum, a
20-cm dsv centered in the RF body coil.

1.2 SPECIFICATION AREA
The specification area is the intersection of the specification volume and the image plane.

NEMA Standards Publication MS 6-1991 (mriquestions.com)より抜粋して引用

まず、「保証範囲」とは、「仕様領域」のことです。
保証範囲とはNEMAでいう “Specification Area”のことであり、一般的には仕様領域と言われます。
仕様領域とは、仕様体積“Specification Volume”を撮像した場合の領域です。
仕様体積はその名の通り体積です。


頭部想定ファントムの場合、
「ヘッドコイルを使用して直径10cmの球を撮影できますか?」
そして
「その画像はメーカーとして保証しますか?」ということです。

腹部想定ファントムの場合、
「ボディコイルを使用して直径20cmの球を撮影できますか?」
そして
「その画像はメーカーとして保証しますか?」ということです。

仕様領域及び仕様体積はメーカーが画質を保証した範囲のことです。

自分では調べられませんのでメーカーのMR担当者に聞くとよいです。
装置によってバラバラです。

MRI装置に画質保証範囲がある場合は、その85%を計算し、大きい方を採用する必要があります。

したがって、
頭部想定ファントムに使用するファントムは、
少なくとも直径10cm以上で、ヘッドコイルで撮像できる大きさ、であればOK
ということになります。

腹部想定ファントムでは
直径20cm以上で、ボディコイルで撮像できる大きさであればOKです。

ただしその際、レポートには、
「保証範囲の設定がメーカーに無いことを確認した為」
ということを記載しておく必要があるのかもしれません。

メーカーに保証範囲を聞くべし

ファントムを自作する場合

作る場合はMRI付属のファントム溶液別途球形容器が必要です。

球形容器は東急ハンズネットストア等で購入できます。
スチロール半球 150φ
スチロール半球 250φ

中に溶液を入れるそうなのですが、うまく2つをくっつけられれば直接入れられるかもしれません。
でも怖いので溶液はビニール袋かなにかに入れ、半球でうまくサンドする方が良いかと思います。
もしくはビニール袋の中に球を入れ、多少こぼれても良いようにするかです。

作るの大変。なるべく借りよう。

撮影編

撮影しよう

ファントムの準備ができましたら、撮影していきます。
撮影条件は指定されているので確認しましょう。

3)撮像条件
・ファントムはアイソセンターに置かれたRF受信コイルの中心に配置する。
・室温およびファントム温度は22±4℃。
・Spin echo(SE)法が望ましいが、必ずしもこの限りではない。
・TR≧3×T1、TEは一般的に臨床に使用される範囲。
・シングルスライスで、撮像面はAxial。
・FOVは面内においてRFコイルの最大径の110%を超えないこと。
・スライス厚≦10mm
・表面コイルは使用できない。
・Parallel imagingを使用してはいけない。

(後略)

性能評価試験項目|日本磁気共鳴専門技術者認定機構(JMRTS) (umin.ac.jp) より引用

この通りに撮像していきます。

ファントムはアイソセンターに置かれたRF受信コイルの中心に配置する

これは言葉通り、コイル中心にファントムを置くだけです。
注意点があるとすれば、高さ方向も中心にする必要があるので、タオルの上などにファントムを置いて高さ調節しましょう。

室温およびファントム温度は22±4℃

温度を測定しておきます。前日から温度計を撮影室内に入れておきましょう。

Spin echo(SE)法が望ましいが、必ずしもこの限りではない

素直にSE法一択

TR≧3×T1、TEは一般的に臨床に使用される範囲

TRの設定です。

前述のファントムの条件の項目で、
T1値<1200ms、T2値>50ms、TR≧3×T1
と、しれっと記載があります。

そもそもファントムのT1値T2値を正しく知っていなくては使ってはいけないファントム、ということになります。

ここで先にT1T2値の測定をやりたいところですが、おそらく挫折します。

ですので、ここはまず練習と思って、
T1T2値を知らないままでSNRを測定しましょう。

TR2000msくらいに設定しておけば間違いありません。
間違っていてもSNRの測定はすぐにできてしまいます。

もちろん厳密にやりたい方はT1T2値の測定を先に行って良いと思います。

TEは10-100くらいでOKです。臨床に使用される範囲で。

シングルスライスで、撮像面はAxial。

アキシャルで。

FOVは面内においてRFコイルの最大径の110%を超えないこと。

ボディコイルを使用するので、無視でOKです。

・スライス厚≦10mm
・表面コイルは使用できない。
・Parallel imagingを使用してはいけない。

スライス厚は好きな厚さでOKです。8㎜とか。

表面コイル、Parallel imagingは使用禁止です。
ここで審査委員から注意コメントがあります。

性能評価試験の書類審査に関する審査委員からのコメント
・均一性試験に SNR の記載がないなど、レポート作成が未熟な申請があった。
・SNR の測定に NEMA 法を推奨しており、表面コイルを使用する場合には URL に紹介
する手法を用いるように案内しているが、普段使用しているコイルが表面(多チャンネ
ル)コイルであることを知らない人がいるかもしれない

http://plaza.umin.ac.jp/~JMRTS/dl/gijiroku2021dai2kai.pdf より抜粋して引用

コメントにあるように表面コイル使っちゃだめです。
本体内蔵ボディコイルでやりましょう。

撮影条件(例)

頭部想定:TR2000/TE15/Matrix192/NEX1/Slicethick8mm/FOV185/BW163
腹部想定:TR2000/TE15/Matrix256/NEX1/Slicethick8mm/FOV240/BW163


撮像は2回行います。
同一のパラメータで1回目の撮像終了と2回目の撮像開始の間をを5分以内で撮影します。
撮像プランコピーで同じプランを2回撮影するだけです。

メーカーによってプランはいろいろだと思いますので、施設のMRIのプランに合わせて設定するのが良いと思います。

画像取得・信号強度測定

失敗例

ファントム設置してすぐ撮影すると、溶液が安定しないので、ぐちゃぐちゃの画像になります。
ある程度時間をおいてから撮影しましょう。

よく文献などでは10分以上放置しよう、と書いてありますが、10分ではだめです。

最低1時間は必要なのが分かると思います。

1時間置いても、辺縁が結構不整な信号強度になってしまいました。
うーん。無視。

1時間は静置しよう

 

 

成功

設置後4時間です。
なんか均一ではありませんが、中の溶液が動いているわけではありません。


端っこは測定しませんので、、無視。
勢いで差分もしてしまいました。この時点ではしなくてもOKです。

今回撮影したのは、キャノンメディカルの付属ファントムです。でかいです。直径30㎝。
キャノンメディカル付属ファントムには頭部用の小型球形ファントムはありませんでした。残念。

何度か撮影してみよう

 

測定

75%以上のROIを設定して平均信号強度を測定します。
装置の機能で必ずあるのですぐわかると思います。

・ROIは画像断面の75%は少なくとも囲むこと。

4)測定結果の基になった数値と計算式を記載する。また、その数値が何を表しているのかも示す。
5)差分(subtraction)ができない装置は簡易法を用いても構わない。

http://plaza.umin.ac.jp/~JMRTS/dl/gijiroku2021dai2kai.pdf より抜粋して引用

ROI面積計算

30㎝ファントムの面積は706.5㎝2
75%の領域は529.875㎝2なのでこれ以上の数値が必要。

したがって上記の測定領域は75%以下なのでだめです。
図り直し。
面倒なのでこのまま説明します。

1と2両方測定しましたが、使うのは片方のみです。
1の測定値を使います。

簡易的な計算ツールを作成しました。

75%領域 計算式ツール
ファントム径[cm] 領域[%] 測定面積= 0 cm2 以上のROIが必要

ファントム1の平均信号強度=168.096

差分画像の取得

先走ってしまいましたが、サブトラクションします。(1の画像)ー(2の画像)です。
2枚の画像をサブトラクション(差分)します。
こちらも装置の機能に必ずあります。

 ここで注意です。
差分結果をマイナス値に設定する必要があります。
差分結果がマイナスにならず、ゼロになってしまうと厳密なノイズ画像とはならないので注意してください。

信号強度10から15を差分しても-5にならず、0になってしまう、ということです。
これは差分時の設定でできます。

    GEの場合:差分画像画面でAccept Negative Pixelsにチェックを入れる。
シーメンスの場合:オートスケールにチェックを入れる。
キャノンの場合:設定なしでマイナス値保持される。
※仕様変更する可能性があるので要確認※

測定した腹部ファントムの標準偏差値の項目を確認します。

差分画像の標準偏差=2.14982

計算

SNRの理論

SNRの理論を軽く説明します。
NEMAに詳しく載っているので、必要な部分のみ抜粋します。

Equation7にEquation3を代入すると、

SNR=(√2×信号強度S)/標準偏差値SD

となりますね。

測定信号強度に√2をかけて、標準偏差で割るだけ。

計算しよう

ここにこれまでの測定値を当てはめます。

S=ファントム1の平均信号強度=168.096

SD=差分画像の標準偏差=2.14982

SNR=(√2×信号強度S)/標準偏差値SD

簡易的な計算ツールを作成しました。
ご利用ください。

SNR計算式ツール
信号強度 標準偏差 SNR= 0

腹部ファントム:SNR=(√2×168.096)/2.14982=110.249

結果

腹部ファントム:SNR 110.249

頭部ファントムも同様に行う必要があります。
やり方は全く同じでOKです。

シーメンスには頭部ファントムが付属していました。
現在キャノン製を使用しており、ファントムがありません。

最後に


測定は15分くらいで終わるので簡単です。
あと、ファントムおいてから1時間は動かせないので、検査の合間にやるのは厳しいかも。
昼休みか、1日の検査終了後に測定です。

SNR測定 レポートの書き方 | 磁気共鳴専門技術者認定試験にチャレンジ! (brightwalk.net)

次は均一性の試験です。

この通りにやっても100%通過するとは、もちろん言い切れません。
最終的には、もちろんご自身で確認し、ご自身の判断、責任でおねがいします。
当サイトは一切の責任をとれません。

お約束なので記載しておきます。

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